このページでは「形態安定シャツの比較試験を適切に行うための条件」を再定義します。
どの様に試験を行うのか、どの様な意図があってこの試験を行うのかなどを確認してください。
試験の条件
試験の目的
試験する目的は、同じ様に見えるシャツでもまったく違うことを知ってほしいからです。
シャツを買う際には、次の様な流れで選ぶと思います。
- えり回りや裄丈などの、サイズを測ってもらいます。
- 好みの色・デザイン・素材のシャツを探します。
- 機能性素材などの情報を確認します。
- 試着してみます。
- 良ければ購入します。
もし試着をしていたとしても、洗濯後にサイズが変わってしまったら、着心地も変わってしまいます。
また、機能性素材や、効果的な縫製方法を謳っていたとしても、一般のお客様が細かく理解するのはなかなか難しいです。
そこで、一般的に流通している商品が、どのくらいの規格で作られているのかを比較しました。
今回は、「綿の形態安定加工は、どのくらい形態が安定するのか?」について比較します。
形態安定性のJIS規格「L1924」について
シャツの形態安定性についての試験及び評価基準は、2017年からJIS規格に制定されています。
規定される前までは各社独自の基準だったため、形態安定性が保たれないシャツを販売する企業も多々あったようです。
大手百貨店に指導が入り、新聞に取り上げられる様なこともありました。
形態安定性や耐久性の高い商品の需要が高まったことと、一般化したこと、問題が多く発生したことにより、この規格が制定されたものと思われます。
なお、対応国際規格は、まだ制定されていないようです。
形態安定シャツとは
形態安定シャツとは、文字通り「形態安定加工」を施した「シャツ」です。
形態安定加工には、生地や製品に化学的な処理を施す加工と、縫製により堅牢度を増す加工があります。
この規格では、形態安定をさせる加工の方法は問わず、純粋に形態安定性のみを評価します。
この規格が示すシャツとは、一般的にビジネスに使用されるような体型にフィットしたシャツを指し、カジュアルなシャツやデザイン性の高いシャツなどの、体型にフィットしていないものは含みません。
試験と評価の方法
基本はJISに沿いますが、弊社独自の試験と評価の方法に定義しなおします。
正式な形態安定シャツの試験では、試験方法を一定に保つために「室内・無風での吊り干し」や「タンブル乾燥」を行います。
ただしこの試験方法は、試験期間と費用を抑えるために一般家庭の洗濯環境と変えていることから、規格の懸案事項のひとつとしても解説されています。
そのため今回は、一般家庭の洗濯環境に近い状態で検証するために、弊社独自の試験方法を行います。
洗濯方法に関しては「洗濯の条件」で定義しなおします。
乾燥方法に関しては「比較試験の条件」で試験内容ごとに定義しなおします。
規格で正式に定めている評価手順は、洗濯乾燥後の初回と最終回に行うと書いています。
初回試験の評価が最終試験の基準を下回る場合は、その時点で形態安定性がないと判断して、その後の試験は行いません。
ただし今回の試験に関しては、形態安定性の有無だけではなく各社製品の比較が目的のため、初回洗濯時の評価を行わず、購入時と比較試験用の評価のみ行います。
評価基準
JIS規格に沿った評価を行いますが、今回の試験は条件を再定義していることから正式な検査ではないため、1~5等級の0.5等級刻み9段階評価ではなく、★による5段階評価で記します。
形態安定シャツには、「生地が平滑で綺麗であること」「縫い目が引きつれていないこと」「形が保たれていること」「寸法が変化していないこと」のすべてに対して、基準値以上の性能を持つことが求められます。
- 生地の平滑性に関しては、
- JIS L 1096の附属書Nに則り、洗濯後の製品が洗濯前と同様の平滑な外観を保っているかを確認します。
評価部位は、一番平面の範囲の広い「後身頃」です。
「洗濯後の生地の平滑性」を評価し、★★★以上を形態安定性ありと判断します。 - 縫い目の引きつれの少なさに関しては、
- JIS L 1905の6.2に則り、製品に引きつれがないかを確認します。
評価部位は、「衿」「カフス」「前立て」「ポケット」「わき縫い目」「ヨーク」「袖ぐり」です。
JIS規格には定められてはいませんが、「裾」の巻縫いに関しても評価をします。
「洗濯後の縫い目の引きつれ度合い」を評価し、衿が★★★以上、その他が★★以上を形態安定性ありと判断します。 - 形が保たれているかに関しては、
- 同規格の附属書Aの評価用標準写真を用い、形が保たれているかを判断します。
評価部位は、「衿」「カフス」「前立て」です。
「洗濯後の各部位の保形性」を評価し、★★★以上を形態安定性ありと判断します。 - 寸法に関しては、
- 寸法の変化率を求めだして確認します。
測定部位は、「えり回り」「裄丈」です。
JIS規格には定められてはいませんが、その他にも着心地に関わる部位の寸法を測定し、比較します。
「洗濯後の寸法変化率」を測定し、-2.0%~+1.0%の範囲内を形態安定性ありと判断します。
これらの評価結果がいずれも基準値を満たす場合に、形態安定性ありと認められます。
洗濯の条件
洗濯絵表示に関わらず、洗濯方法をすべて同じにしています。
- 洗濯の条件
- 前提条件:実際に丸一日着用した製品を洗濯
- 洗濯機:タテ型洗濯機・容量5kg
- 洗濯方法:標準モード(自動水量・洗い1・すすぎ2・脱水)
- 水温:常温
- 洗剤:蛍光増白剤不使用の液体洗剤「SUPER NANOX」
- 柔軟剤:「レノア本格消臭」
- 漂白剤:酸素系漂白剤「ワイドハイターEXパワー」
- 補助薬剤:えり袖用の塗布剤は不使用
- 洗濯ネット:A3サイズ角型ネットに畳んで入れる
- 備考:比較試験で評価しない1~9回目の乾燥は、天日吊り干しで乾燥
前提条件として、製品は必ず着用してから洗濯します。
実際に着用と洗濯を繰り返すことで、より一般家庭の環境に近い試験が行えます。
そのため、期間は長くかかりますが、毎回実際に着用してから洗濯を行います。
実際に着用することで、以下の様に変化します。
- ・芯地の収縮や剥離が発生することがあります。
- 今回はアイロンがけをしないため、局所的な高温による収縮は発生しませんが、トップヒューズ芯の場合は、水分と熱により、収縮や剥離が発生しやすくなります。
仮接着芯の場合は、水洗いをすることで、水溶性の糊が溶けてふらし状態になります。 - ・可動部分に大きなシワが残りやすくなります。
- 袖の付け根やひじなどの大きく動かす部位には、大きなシワができやすいです。
また、シワが繰り返しできることで、生地が擦れ、癖がつき、同じ部分にシワができやすくなります。 - ・衿やそで口などの、密着部分の汚れが残ります。
- 何度も着続けることで、汚れが蓄積します。
汚れの付き方により、芯地の収縮具合や縫製のレベルの判断材料にもなります。
ただし、今回の試験では評価しません。
これらのことに関しては、実際に着用してみなくては判断できません。
今回の比較試験のテーマの「綿の形態安定性」に大きくかかわることのため、毎回実際に着用してから洗濯を行います。
同じアイテムでも企業ごとに洗濯の基準が変わりますが、すべて一定の条件で洗濯します。
製品ごとに洗濯条件を変えてしまうと比較試験ができないため、一般の家庭で一番多いと思われる方法で洗濯します。
試料の条件
シャツ購入時の条件
「綿100%の形態安定で普通のシャツ」を店員に選んでもらいました。
商品は、自分の主観が極力入らない様な条件で購入します。
接客を受ける条件
- 1.店員を自分で選びません。
- 店内に入り10分程度は、自分から店員に声をかけません。
ただし、声を掛けてこない場合は、10分を経過した時点で一番近くの店員を呼びます。 - 2.商品を自分で選びません。
- 初めに話しかけてきた店員に採寸をしてもらい、サイズやデザインを選んでもらいます。
採寸をしないお店の場合も、店員にサイズやデザインを選んでもらいます。 - 3.店員が多く、情報が偏りにくそうな店舗で購入します。
- お客様の数が多ければ、それだけ多くの店員が必要となり、高い基準で平均化されると思います。
そのため今回は、JR東日本の1日あたりの乗車人数のトップ1・2の、新宿と池袋の2都市のみに絞りました。 - 4.購入時期による技術レベルの変化をさせません。
- 購入時期が大きくずれると、新技術の開発などにより不利になるケースがないとも言い切れません。
そのため、購入期間は1着目を購入してから1か月以内に済ませました。
商品の条件
- 5.生地は、「綿100%の形態安定加工生地で、白色の一番普通なもの」と伝えます。
- 該当する生地がないと言われた場合、代替案として「1.綿が主の形態安定加工生地」「2.綿100%」の順で選んでもらいます。
着用時期を聞かれた場合は、「通年用」と答えます。 - 6.デザインは、「レギュラーカラーで、一番普通なもの」と伝えます。
- 該当するデザインがないと言われた場合、代替案として「一番レギュラーカラーに近い衿型」を選んでもらいます。
- 7.サイズ感・着心地は、「普通なもの」と伝えます。
- いつも買っているシャツのサイズ感を聞かれても「普通のサイズ感」と答えます。
- 8.希望条件に合致するものがない場合は、条件に一番近い商品を店員に選んでもらいます。
- 想定外の質問をされた場合も、自分で選ばずに、すべて選んでもらいます。
この様に、試験に必要な指定条件以外をすべて店員に任せることで、自分の主観を挟まずに、そのお店の代表としての店員の意見が反映されるようにしました。
購入した既製シャツ一覧
今回購入した綿の形態安定加工シャツを、値段の安い順に並べました。
購入時期は、すべて1月です。
各社商品の詳細試験に関しては、ブランド別評価のページを参照してください。
- 名称:GU
- 関係会社:(株)ファーストリテイリング
- 関係ブランド:ユニクロ / Theory / PLST
- 表記サイズ:M
- 生地組成:綿100% イージーケア
- 値段:1,990円(税抜)
- 名称:無印良品
- 関係会社:(株)良品計画
- 関係ブランド:無し
- 表記サイズ:M
- 生地組成:綿100% 形態安定
- 値段:2,490円(税抜)
- 名称:ユニクロ
- 関係会社:(株)ファーストリテイリング
- 関係ブランド:GU / Theory / PLST
- 表記サイズ:M
- 生地組成:綿100% SUPER NON-IRON
- 値段:2,990円(税抜)
- 名称:SUIT SELECT
- 関係会社:(株)コナカ
- 関係ブランド:紳士服コナカ / 紳士服フタタ / DIFFERENCE
- 表記サイズ:S-80
- 生地組成:綿100% 形態安定シャツ
- 値段:3,800円(税抜)
- 名称:BRICK HOUSE by Tokyo Shirts
- 関係会社:日清紡ホールディングス(株)
- 関係ブランド:無し
- 表記サイズ:S-80
- 生地組成:綿100% 形態安定
- 値段:3,900円(税抜)
- 名称:ORIHICA
- 関係会社:(株)AOKIホールディングス
- 関係ブランド:AOKI
- 表記サイズ:S(37-82)
- 生地組成:綿100% 形態安定
- 値段:3,900円(税抜)
- 名称:ONLY
- 関係会社:(株)オンリー
- 関係ブランド:無し
- 表記サイズ:SLIM FIT 38/R
- 生地組成:綿100% Easy Care
- 値段:4,800円(税抜)
- 名称:THE SUIT COMPANY
- 関係会社:青山商事(株)
- 関係ブランド:洋服の青山 / UNIVERSAL LANGUAGE
- 表記サイズ:37/84
- 生地組成:綿100% NON IRON STRETCH
- 値段:4,800円(税抜)
- 名称:P.S.FA(パーフェクト スーツ ファクトリー)
- 関係会社:(株)はるやまホールディングス
- 関係ブランド:はるやま / フォーエル
- 表記サイズ:37-80
- 生地組成:綿98% ポリウレタン2% COTTON PREMIUM CARE i-shirt
- 値段:4,900円(税抜)
- 名称:AOKI
- 関係会社:(株)AOKIホールディングス
- 関係ブランド:ORIHICA
- 表記サイズ:SLIM FIT 38/R
- 生地組成:綿100% 形態安定
- 値段:4,990円(税抜)
- 名称:TAKA-Q
- 関係会社:(株)タカキュー
- 関係ブランド:m.f.editorial / SHIRTS CODE / SUITIST / GRAND-BACK
- 表記サイズ:M-80
- 生地組成:身生地 綿100% Extra fine cotton x Super easy care
- 値段:4,990円(税抜)
- 名称:洋服の青山
- 関係会社:青山商事(株)
- 関係ブランド:THE SUIT COMPANY / UNIVERSAL LANGUAGE
- 表記サイズ:S-80
- 生地組成:綿100% NON IRONMAX STYLISH Fit
- 値段:5,900円(税抜)
以上が、比較試験用の綿の形態安定加工シャツの一覧です。
以下は、同様の条件で比較対象として購入した、綿の「形態安定加工ではない」シャツです。
「形態安定加工を施した綿」と「通常の綿」との比較のために使用します。
- 名称:Maker’s Shirt 鎌倉
- 関係会社:メーカーズシャツ鎌倉(株)
- 関係ブランド:無し
- 表記サイズ:38-82
- 生地組成:綿100%
- 値段:5,900円(税抜)
比較試験の結果のページ
これらの前提条件を元に、以下の比較試験を行いました。