これまでの連載では、カメラ本体やレンズそのものの設定を扱ってきました。
しかし、プロのフォトグラファーやシネマトグラファーの機材バッグには、必ずといっていいほど「特殊なガラス板」が入っています。
それがレンズフィルターです。
デジタル上でこれらを再現することは、単なる装飾ではありません。
光の性質を意図的に捻じ曲げ、”特定の感情” を画面に焼き付けるための高度な演出術です。
今回は、特に人気の高い「クロスフィルター」と「ブラックミスト(拡散フィルター)」に焦点を当てます。
クロスフィルター(スターフィルター):光を「星」に変える
夜景や宝石の輝きから、放射状に光の筋が伸びているのを見たことがあるでしょう。
これはレンズの前に刻まれた細い溝によって、光が回折(かいせつ)して起こる現象です。
演出的な役割
クロスフィルターは、画面に「華やかさ」「祝祭感」「神聖さ」を与えます。
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4本線(十字): スタンダードで清潔感のある輝き。
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6本線・8本線: よりゴージャスで、宝石やイルミネーションを強調したい時に有効。
Unityでの実装アプローチ
残念ながら、標準の 『Bloom』 には光を十字に伸ばす設定はありません。中級デザイナーが取るべき手法は主に二つです。
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“Dirt Texture” の応用: 第3回で紹介した 『Bloom』 の “Dirt Texture” に、あらかじめ「十字のフレア」が描かれたテクスチャを高密度に敷き詰めたものを使用します。
最も軽量で、手軽に雰囲気を出すことができます。 -
カスタムシェーダー(Compute Shader): 特定の高輝度ピクセルから、特定の角度にのみ色を滲ませる専用のパスを追加します。
非常に高品位ですが、テクニカルアーティストの領域に踏み込む手法です。
「ただの明るい点」を「デザインされた星」に変えるだけで、シーンのラグジュアリー感は一変します。
ブラックミスト(ディフュージョン):デジタルを「映画」に変える
現代のゲーム画面が「鮮明すぎてCG臭い」と感じるなら、このフィルターの出番です。
ブラックミスト(拡散フィルター)は、解像感を維持したまま、ハイライト部分だけを淡く滲ませ、シャドウとのコントラストを和らげる効果があります。
なぜ「ブラック」ミストなのか
通常のソフトフィルターは画面全体を白っぽくしてしまいますが、ブラックミストは「黒い拡散粒子」をガラスの中に混ぜることで、黒い部分は締めつつ、光だけを柔らかく広げます。
これにより、人物の肌は滑らかになり、光の階調が非常に豊かになります。
Unityでの設定テクニック
『Post-processing』 の 『Bloom』 を使って、擬似的にブラックミストを作る設定のコツを伝授します。
| 設定項目 | ブラックミスト風の調整案 | 理由 |
| “Threshold” | 0.5 ~ 0.8 程度に下げる | 強い光だけでなく、中輝度の光もわずかに滲ませるため。 |
| “Intensity” | 0.1 ~ 0.3 程度の極低値 | 強くかけすぎると「昔の回想シーン」になってしまうのを防ぐ。 |
| “Scatter” | 高めに設定(0.7 ~ 0.9) | 光を広範囲に、かつ薄く拡散させるため。 |
| “Tint” | わずかに暖色や寒色を混ぜる | フィルターそのものの個性を演出する。 |
この設定を加えるだけで、デジタルのパキパキとした質感が「しっとりとした映画的な質感」に変わります。
NDフィルター:露出を支配する「サングラス」
実写では、昼間の明るい場所で背景をボケさせる(F値を下げる)と、画面が真っ白に飛んでしまいます。
それを防ぐために使うのが、光量を落とす “NDフィルター” です。
Unityの物理カメラ設定において、”F-Stop” を 1.4 などの明るい設定にした際、画面が露出オーバーになったらどうすべきでしょうか?
「ライトを弱める」のは最後の手段です。
まずはカメラの “ISO” を下げるか、”Shutter Speed” を速くします。
それでも足りない場合、ポストプロセスの “Exposure” (露出)をマイナスに振る。
これがUnityにおける「デジタルNDフィルター」の役割となります。
「明るすぎるからライトを消す」のではなく、「光をどう受け止めるか(フィルターを通すか)」を考える。この思考の転換が、デザイナーのライティングスキルをプロレベルへと引き上げます。
まとめ
第4回では、標準機能を「組み合わせ」たり「ハック」したりして、現実の特殊フィルターを再現する方法を学びました。
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“Cross Filter” は、光を星に変え、豪華さを演出する。
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“Black Mist” は、光を柔らかく滲ませ、空気感と肌の質感を整える。
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“Exposure” 調整は、レンズの「不自由さ」を克服するNDフィルターとして機能させる。
これらのフィルター効果は、いわば料理の「仕上げの塩」です。
なくても成立しますが、正しく使うことで素材(3Dモデルやライティング)の良さを何倍にも引き立ててくれます。
次回はいよいよ最終回。
シネマティックなルックの象徴である「アナモルフィック・エフェクト」と、これまで学んだすべてを統合した「最終的な画作り」についてお届けします。

