「とりあえず背景をぼかしておけば、それっぽく見える」
そんな段階を卒業し、意図を持ってボケをコントロールできるようになるのが、中級デザイナーへの大きなステップです。
デジタルな計算で生成された画像は、本来、遠くも近くも等しく鮮明に描画されます。
しかし、私たちの瞳やカメラのレンズには「ピントの合う範囲」という物理的な限界があります。
この限界こそが、皮肉にも映像に “情緒” や “実在感” を与える重要なスパイスとなるのです。
「ぼかし」と「ボケ」は似て非なるもの
まず明確にしておきたいのは、グラフィックソフトのガウスぼかし(Gaussian Blur)と、光学的な “Bokeh” (ボケ)は根本的に仕組みが違うという点です。
ガウスぼかしは、周囲のピクセルを平均化して「不鮮明」にする処理です。
一方で、レンズが作り出すボケは、光の点がその形状を保ったまま大きく広がる現象です。
これを正確に再現するには、Unityの『Post-processing Stack』や『Volume』内の “Depth of Field” を正しく理解し、設定する必要があります。
中級者が目指すべきは、単に画面を濁らせることではなく、美しい “Circle of Confusion” (錯乱円)をデザインすることです。
第1回の物理設定が「ボケ」を決める
前回の連載で解説した 『Physical Camera』 の設定は、この第2回で真価を発揮します。
UnityのシネマティックなDoF設定には、主に二つのモードがあります。
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“Manual”(手動設定):距離を手動で入力する
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“Physical Camera”(物理連動):カメラコンポーネントの設定を継承する
デザイナーとしてクオリティを追求するなら、迷わず後者の物理連動を選びましょう。
なぜなら、レンズの “Focal Length” (焦点距離)を伸ばせばボケが大きくなり、 “F-Stop” (F値)を絞ればピントが深く合うという、「カメラの当たり前」がそのまま絵作りに反映されるからです。
数値をいじって偶然いい絵を探すのではなく、第1回で学んだ「レンズ選び」の延長線上でボケを制御できる。
この一貫性が、シーン全体の説得力を生みます。
ボケの形状を「デザイン」する
現実のレンズには「絞り羽根」というパーツがあり、その枚数や形状によってボケの形が変わります。Unityの “Depth of Field” コンポーネントにある詳細設定を見てみましょう。
“Blade Count” (羽根の枚数)
ボケの形が「五角形」になるか「綺麗な円形」になるかを決めます。 例えば、少しクラシックなオールドレンズの雰囲気を演出したいなら、あえて枚数を 5枚 や 6枚 に設定し、多角形のボケを目立たせる手法が有効です。逆に、現代的で高級感のある描写なら、枚数を増やして円形に近づけます。
“Curvature” (曲率)
羽根の反り具合を調整します。これを操作することで、多角形のカドを丸め、より自然で柔らかいボケ味を作ることができます。
“Barrel Clipping” (口径食)
中級者ならぜひ使いこなしたいのが、この「画面端のボケの歪み」です。
現実のレンズでは、画面の中心は円形のボケになりますが、端に行くほど「レモン型」や「猫の目」のように歪みます。これをあえて再現することで、画面中央の被写体へと視線を誘導する強い力が生まれます。
光学の不完全さ:ボケの縁(Fringe)
完璧な円形のボケは、時にCG特有の「冷たさ」を感じさせます。
そこで重要になるのが、レンズの収差(設計上の不完全さ)の再現です。
最新のポストプロセスの設定では、ボケの縁にわずかな色づき(色収差)を乗せることができるようになっています。
これを “Bokeh Fringe” や “Chromatic Aberration” と組み合わせて微調整すると、ボケた背景の中に虹色のわずかな滲みが生まれ、一気に「レンズを通した映像」としての実在感が増します。
デザイナーのための「ピント」の演出術
テクニック以上に重要なのが、「どこにピントを合わせ、どこをボケさせるか」という演出意図です。
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浅い被写界深度(大きくぼかす): キャラクターの表情や、小さなオブジェクトを強調したい時に使います。
周囲のノイズ(情報量)を遮断し、プレイヤーの意識を一点に集中させることができます。 -
深い被写界深度(あまりぼかさない): 壮大な景色や、敵味方が入り乱れる戦場など、空間全体の「状況」を説明したい時に使います。
「ボケすぎている」のは、時に情報の欠落を招きます。
中級デザイナーは、プレイのしやすさと見た目の美しさのバランスを、このDoFの設定一つでコントロールしているのです。
まとめ
第2回では、物理カメラの設定をベースにした「ボケ」の深い世界を覗きました。
ボケは単なる背景隠しではありません。それは、レンズという物理的なフィルターを通して世界を見るための「質感のデザイン」そのものです。
「どんなレンズで、どんな絞り羽根でこの景色を切り取ったのか」
その設定一つ一つに物語を込めることが、あなたの作るシーンをプロフェッショナルなレベルへと引き上げます。
次回、第3回では、この光の広がりをさらに強調し、空気感を演出する “Bloom” (ブルーム)と、レンズの「汚れ」による反射の表現について解説します。
