第5回:シネマティック・ルックの極致―アナモルフィックと最終的な画作り

Unity(デザイナー向け)

全5回にわたる連載もいよいよ最終回です。
これまでに私たちは、物理カメラの基礎、被写界深度によるボケの演出、光の滲み、そして特殊フィルターの効果を学んできました。

最終回のテーマは、これらすべての要素を一つの「世界観」として統合する作業です。
特に、映画制作において「最高峰の質感」の一つとされる “アナモルフィック・レンズ” の再現と、最終的なクオリティを引き上げるノイズの魔法について解説します。


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アナモルフィック・レンズ:映画の「格」を決める横長の魔法

「映画らしい絵」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのが、画面上下に黒帯が入ったワイドな映像や、横方向に長く伸びる青いフレアではないでしょうか。
これは “アナモルフィック・レンズ” という特殊なレンズがもたらす視覚的特徴です。

このレンズは、横方向の視界をギュッと圧縮してセンサーに記録し、上映時に再び引き伸ばすという特殊な仕組みを持っています。
この「歪み」こそが、デジタルの世界では得られない圧倒的な「映画感」を生み出します。

1. 楕円形のボケ(Oval Bokeh)

第2回でボケの形状を学びましたが、アナモルフィック・レンズの最大の特徴は、ボケが「縦長の楕円形」になることです。
Unityの 『Post-processing』 や 『Volume』 内の “Depth of Field” にある “Anamorphic Ratio” (アナモルフィック比)の数値を調整することで、この独特なボケを再現できます。
数値をマイナス方向に振ることで、背景の光が縦に伸び、被写体がよりスリムに、かつ強調されて見えるようになります。

2. アナモルフィック・フレア(Horizontal Streaks)

光源から水平に長く伸びる「青い光の筋」。
これはアナモルフィック・レンズ特有の光学現象です。 Unityでこれを再現するには、第3回で学んだ 『Bloom』 を応用します。
“Scatter” (拡散)の値を調整し、さらに “Dirt Texture” に横筋の入ったテクスチャを組み合わせるか、専用の “Lens Flare (SRP)” を使用して「水平方向のフレア」を追加します。
この一本の線が画面に入るだけで、SF映画や重厚な人間ドラマのような空気感が一気に醸成されます。


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「不完全さ」を足してリアリティを完成させる

中級デザイナーが最後にやるべき仕事は、整いすぎたCGの絵を「壊す」ことです。
現実のカメラは、どれほど高価であっても「完璧な像」を結ぶことはできません。
その不完全さを再現するのが “Chromatic Aberration” と “Film Grain” です。

色収差(Chromatic Aberration):光のズレを演出する

レンズの端に行くほど光が正しく結像せず、色が虹色にズレる現象です。
Unityの “Chromatic Aberration” 設定を、画面の四隅にわずかに適用しましょう。
これにより、プレイヤーの視線は自然と「情報の正しい中央」へと誘導され、同時に「これはレンズ越しに見ている映像である」という実在感が強化されます。
かけすぎは禁物ですが、隠し味としての “0.05 ~ 0.1” 程度の適用が効果的です。

フィルムグレイン(Film Grain):画面の「密度」を補う

デジタル画像は、特に暗い部分において「滑らかすぎて平坦」に見えることがあります。
ここに微細なノイズを乗せるのが “Film Grain” です。 ノイズが乗ることで、人間の脳は「画面の中に細かいディテールがある」と錯覚します。
また、暗部での色の階調飛び(バンディング)を隠す役割も果たしてくれます。


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最終工程:カラーグレーディングと周辺減光

すべてのレンズエフェクトが揃ったら、最後にトーンを整えます。

  • ヴィネット(Vignette): 画面の四隅をわずかに暗くします。
    これはレンズの端の光量が落ちる現象の再現ですが、演出上は「画面中央のドラマへの集中力」を高める強力なツールになります。

  • LUT(Look Up Table): 最終的な色の方向性を決めます。第4回で学んだフィルターの効果を、このLUTで一つのトーンにまとめ上げます。


終わりに:デザイナーの「意図」がカメラを動かす

全5回を通して見てきた通り、Unityのカメラ設定は単なる「パラメータの羅列」ではありません。
物理的な理屈を知り、レンズの不自由さを理解し、あえて不完全な要素を付け加える。
そのプロセスすべてが、プレイヤーに「どんな感情を抱かせたいか」というアートディレクションに直結しています。

「なぜ50mmのレンズを選んだのか?」
「なぜボケの形を六角形にしたのか?」

その問いに答えられるようになったとき、あなたの作るUnityの画面は、もはや単なるプログラムの出力結果ではなく、一つの「表現」としての映像美を放ち始めるはずです。

この連載が、皆さんの素晴らしい画作りへの一助となることを願っています。

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