海外は「ジュース」日本は「外連味」?伝統芸能から受け継がれたVFX設計のDNA

Unity(デザイナー向け)

海外のゲームデザインにおいて、プレイヤーの操作に対して過剰とも言える派手なフィードバックを返すことを、果汁が溢れ出すような感覚に例えて “ジュース(Juice)” と呼びます。
ボタンを押した瞬間に画面が揺れ、火花が散り、小銭が飛び散る。この「心地よさ」の追求は、西洋的なおもてなしの心と言えるかもしれません。

一方、日本のゲーム開発、特にVFXやアニメーションの現場でよく使われる言葉があります。それが「外連味(けれんみ)」です。

「もっとケレンを効かせて!」

この言葉のルーツは、歌舞伎や能といった日本の伝統芸能にあります。
海外の「ジュース」が操作に対するフィードバックであるなら、日本の「外連味」は、その「見せ様(みせざま)」そのものの格好良さや、観客をあっと言わせる「ハッタリ」の美学です。
今回は、日本の伝統芸能から現代のゲーム表現へ、無意識のうちに受け継がれている演出のDNAを紐解いていきましょう。

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「外連(けれん)」:物理法則を超えた「ハッタリ」のデフォルメ

歌舞伎における本来の「外連」とは、早替わりや宙乗り、本水(実際の水)を使った演出など、正統派の演技から外れた、観客を驚かせるための派手な仕掛けを指します。

これを現代のVFXに落とし込むと、単なる ”派手さ” ではなく、“物理法則を無視してでも、感情を揺さぶるデフォルメ” となります。

デザイナーへの肉付け:一撃の重さを「画」で語る

例えば、キャラクターが刀を振る軌跡のエフェクト(トレイル)を作る際、物理的に正しい長さや太さでは、プレイヤーにその一撃の「凄み」は伝わりません。
ここで「ケレン」を利かせるなら、刀の軌跡を画面からはみ出すほど巨大にしたり、一瞬だけテクスチャのパースを歪ませて「空間を切り裂いた」ような表現を加えたりします。
単にパーティクルの数を増やすのではなく、その派手さが「どのような感情(恐怖、爽快感、神秘性)」を伝えるためのデフォルメなのかを設計することが、外連味のあるVFXへの第一歩です。

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「見得(みえ)」:止まることで動きを際立たせる「究極のタメ」

歌舞伎の舞台で、役者が感情の高ぶった場面やここぞという瞬間、動きをピタリと止めてポーズを決め、観客の注目を一身に集める。これが「見得」です。

「止まる」ことは、動きを殺すことではありません。
見得によって作られた「一瞬の静寂」は、その前後の動きを何倍にも際立たせる、究極の「タメ」の演出です。

デザイナーへの肉付け:VFXにも「最高の瞬間」を作る

これは、ゲームにおける「決めポーズ」や、ボス登場時のカットイン演出そのものです。
しかし、VFXアーティストとしては、エフェクトそのものにも「見得」の概念を取り入れたいところです。
例えば、魔法陣が展開し、魔法が発動する際、発生から消滅までずっと同じ密度で動かすのではなく、魔法陣が完成した瞬間に一瞬だけ発光を強めて「動きを止める(タメを作る)」。
この一瞬の「最高の画」を見せることで、プレイヤーに「これから強力な魔法が出る」という期待感と、その魔法の「格好良さ」を強く印象付けることができます。

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「序破急(じょはきゅう)」:日本独自の「タメ・ツメ」のリズム

能や雅楽、果ては茶道や武道に至るまで、日本の伝統文化の根底に流れるリズム概念が「序破急」です。

  • 「序(じょ)」: ゆっくりと、静かに始まる。

  • 「破(は)」: 徐々に加速し、展開する。

  • 「急(きゅう)」: 一気に加速し、クライマックスへ至り、結ぶ。

西洋の「1, 2, 3, 4」という均等なリズムとは異なり、この「徐々に加速していくテンポ」は、日本人の感性に深く根付いています。

デザイナーへの肉付け:アニメーションとエフェクトの「呼吸」を合わせる

アクションゲームのコンボ攻撃を例に取ると分かりやすいでしょう。
1段目の攻撃はゆっくりと始まり(序)、2段目、3段目と攻撃が重なるにつれてテンポが速くなり、モーションも大きくなる(破)。
そして、最終段の攻撃で一気に溜めた力を爆発させ、巨大なエフェクトと共に敵を突き飛ばす(急)。
この一連の流れに、エフェクトの発生テンポや消え際も「序破急」のリズムで合わせることで、キャラクターと演出が「同じ呼吸」をしているように見え、圧倒的な躍動感が生まれます。


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まとめ:伝統のDNAを、現代の技術で昇華させる

海外の「ジュース」がプレイヤーへの「おもてなし」なら、日本の「外連味」は、作り手が観客へ提示する「様式美」と言えるかもしれません。

  • 物理法則を超えたハッタリ(外連)

  • 止まることで動きを際立たせるタメ(見得)

  • 日本独自の加速のリズム(序破急)

これらの伝統的な美学は、Unity の 『VFX Graph』 や 『Animation Curve』 といった現代のツールを使う際、どの値を、どのタイミングで、どのように変化させれば「格好良くなるか」という、最も重要な判断基準を与えてくれます。

「ケレンを利かせる」とは、単に派手にするということではありません。
プレイヤーの感情を揺さぶり、作品の世界観を強烈に印象付けるために、どのような「嘘」を、どのような「リズム」でつくか。
その誠実な設計こそが、伝統芸能から受け継がれた、真の外連味なのです。

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