Unityを使えば、眩いエフェクトやダイナミックなカメラワークを簡単に実装できます。
しかし、画面の向こう側にいるのは生身の人間です。
特定の視覚・感覚刺激は、単なる「不快感」を超えて、 “光過敏性発作や深刻な体調不良を引き起こす「物理的な凶器」” になり得ます。
第5回では、クリエイターが「表現の自由」を履き違えて踏み込みがちな、生理的タブーの回避術を解説します。
光過敏性発作(パカパカ):命に関わる「光の暴力」
1997年、日本のテレビ放送史上最大級の医療事故として記録された、大規模な光過敏性発作の事例を覚えているでしょうか。
現在でも「光過敏性発作 実例」と検索すれば真っ先に挙がる その事件は、映像業界・ゲーム業界のルールを根底から変えました。
- タブー:
- 1秒間に3回を超える激しい点滅(特に赤と青の交互点滅は最悪です)。
- 画面の大部分を占める高コントラストなストライプパターンの急激な移動。
- リスク: 光過敏性てんかんの発作を誘発し、最悪の場合は命に関わります。海外市場(特に欧州)では、これらをチェックする「Harding Test」などの基準に合格しないと、プラットフォームで配信できないケースもあります。
- Unityでの防衛策:
- エフェクトの
ColorやIntensityをアニメーションさせる際は、急激な値の変化を避け、緩やかなカーブ(Ease-in/out)を使いましょう。 - ポストプロセスの
BloomやExposureを極端に上げすぎないよう、自動露出補正の設定にリミッターを設けます。
- エフェクトの
「3D酔い」を招くカメラ設計:感覚のズレを最小限にする
「3D酔い(VR酔い)」は、目から入る情報の動きと、耳の三半規管が感じる動きの「ズレ」によって起こります。
これを助長するカメラワークは、プレイヤーをゲームから永久に離脱させます。
- タブー:
- 過度なカメラシェイク: 臨場感を出そうとして、常に画面を揺らし続ける。
- 不自然なFOV(視野角)の急変: ダッシュ時にFOVを極端に広げ、停止時に急激に戻す。
- 意図しない回転: プレイヤーの操作を無視してカメラが勝手にロール(傾き)回転する。
- Unityでの解決策:
- 固定の注視点(レティクル): 画面中央に小さな点や照準(Crosshair)を置くだけで、脳が基準点を認識し、酔いが大幅に軽減されます。
- Cinemachineの活用: Dead Zone や Damping を適切に設定し、カメラがキャラクターの動きを「滑らかに」追うように設計しましょう。
「集合体恐怖症(トライポフォビア)」への配慮:無意識の拒絶反応
小さな穴やブツブツした模様が密集している様子に対して、生理的な嫌悪感や恐怖を感じるプレイヤーは意外なほど多い(人口の約15%という説も)のが現状です。
- タブー:
- 蓮の実のような「不規則で高密度な穴」のテクスチャ。
- 虫の卵やフジツボを想起させる、有機的で立体的な密集デザイン。
- リスク: これは「怖い」という感情ではなく、「不潔だ」「危険だ」という生存本能に直結する拒絶反応です。
ホラーゲームの演出として意図的に使う場合を除き、環境デザイン(岩の質感や壁の模様など)で無意識にこれらを使ってしまうと、一部のプレイヤーは画面を直視できなくなります。 - デザインの境界線:規則的な幾何学模様(ハニカム構造など)は比較的安全ですが、 “「有機的」「不規則」「深さがある」” この3要素が揃うと危険信号です。
中級者のためのUnity実装術:生理的リスクのチェックリスト
制作したシーンが「安全」かどうかを判定するための実務的なステップです。
| 項目 | チェック方法 | 修正のアプローチ |
| 点滅刺激 | 画面全体が白飛びする閃光はないか? | Post-processing の Bloom 強度を下げる、点滅周期を長くする。 |
| カメラ移動 | 加減速が急激すぎないか? | SmoothDamp 等を使い、カメラの初動と停止を滑らかにする。 |
| パターン | 高周波なテクスチャが密集していないか? | ミップマップ設定の確認、またはテクスチャのコントラストを抑える。 |
まとめ:クリエイターの責任は「没入」の先にある
プレイヤーをゲームの世界に「没入」させることは素晴らしいことですが、その代償に心身の健康を損なわせてはいけません。
- 光 は優しく。
- 揺れ は控えめに。
- 模様 は慎重に。
これらの生理的な地雷を避けることは、あなたの作品を「誰にとっても安全で、長く遊べるプロの製品」にするための最低条件です。
