【第3回】世界基準の壁:政治・宗教・歴史「その国では、その地図は使えません」

Unity(デザイナー向け)

前回の第2回では、法律で厳格に守られた「赤十字」や「公共の記号」について解説しました。
これらは「知らなかった」では済まされない明確な地雷原でした。

続く第3回となる今回は、法律以上に複雑で、かつユーザーの感情的な対立を生みやすい「世界基準のタブー(政治・宗教・歴史)」に切り込んでいきます。

『Unity』を使えば、個人開発者であっても『Steam』などを通じて簡単に全世界へゲームを配信できます。
しかし、それは同時に「世界中の多様な文化や歴史的背景を持つ人々が、あなたの作品を審査する」ということを意味します。
日本国内では「単なるかっこいい演出」で済んでいたものが、国境を越えた瞬間に「許されざる侮辱」や「配信停止の理由」へと変わるリスクを認識しましょう。

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独裁政権・全体主義のシンボルと「徹底した抽象化」

世界市場、特に欧州圏を視野に入れる際、最も神経を使うべきなのが「ナチス・ドイツ」に関連するシンボルです。

これらは第二次世界大戦の凄惨な歴史的背景から、ドイツを含む一部の国々では公共の場での表示が法律で厳格に規制されています。
「悪の帝国の象徴」として安易にデザインに取り入れることは絶対に避けましょう。

  • “ハーケンクロイツ(鉤十字)”:最も有名な禁止シンボルです。日本の地図記号の「卍(まんじ)」とは起源も意味も異なりますが、欧米では混同されやすく、非常に強い拒絶反応を引き起こします。
  • “SS(親衛隊)のルーン文字”:稲妻のような形状の「SS」マークも同様に規制対象です。
  • “黒太陽(ブラックサン)”:近年、極右思想のシンボルとして認識されつつあるため、意図せずデザインに含まれてしまわないよう注意が必要です。

これらのシンボルを扱う際、中級クリエイターが取るべき正解は「徹底した抽象化とオリジナルデザインへの置き換え」です。
「ドット絵なら大丈夫だろう」「少し形を崩せばバレないだろう」といった安易な回避策は、かえって「隠れて悪意を忍ばせている」と判断され、プラットフォームから永久追放(BAN)されるリスクを高めます。
プロの現場では、リスクのある記号は「一目でそれと分からない別の意匠」に再設計するのが常識です。

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信仰心への敬意「宗教的シンボルの配置」

日本は宗教に対して比較的寛容な文化背景がありますが、世界には信仰が生活の根幹にある人々が大勢います。

特定の宗教の聖典を「魔法の書」として武器扱いにする、あるいは神聖な像を「足場」や「破壊可能なオブジェクト」として配置することは、熱心な信者の方々への深刻な侮辱と受け取られるリスクがあります。

また、西洋向けでは “逆十字” の扱いにも注意が必要です。
日本では「ダークなアンチヒーローの記号」として多用されますが、キリスト教文化圏では「サタニズム(悪魔崇拝)」や強い反キリストのメッセージとして受け取られ、不必要にプレイヤーを遠ざける原因になります。
宗教的モチーフを扱う際は、「それが誰かにとっての神聖なものである」という想像力を持つことが大切です。

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歴史認識と「国境線・地名」の地雷

ストラテジーゲームや、現実の世界地図を模したマップが登場する作品では、「国境線」や「地名の表記」がビジネス上の命取りになることがあります。

世界には、現在進行形で領土問題を抱えている地域が数多く存在します。
特定の国側の主張に基づいた地図や呼称を採用してしまうと、対立する国では「即時の販売停止」や「大規模な不買運動」を招きます。

これは「どちらの歴史が正しいか」を議論する場ではなく、「クリエイターとして、不要な争いに巻き込まれないためのリスク管理」の問題です。
現実の地図を扱う際は、特定の主張に偏らない「中立的なデータ」を使用するか、架空の地名・地形に置き換えるといった配慮が求められます。

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文化的アイデンティティの象徴:タータンチェックの扱い

海外、特にスコットランドを中心とした英国圏のデザインを扱う際に注意したいのが、“タータンチェック”です。
日本では「単なるおしゃれな格子模様」として消費されがちですが、スコットランドにおいて特定のタータンは「家系やクラン(氏族)を象徴する家紋」と同じ重みを持ちます。

  • リスク: 特定の氏族に伝わる伝統的なチェック柄を、無関係な(あるいは悪役の)キャラクターの衣装に無断で使用することは、その文化や歴史への「不当な流用(Cultural Appropriation)」とみなされる場合があります。
  • 回避策: 伝統的な既存の柄をそのまま使うのではなく、色の構成や格子の比率を変えた「独自のチェック柄」を作成し、不必要な関連性を避けるのがプロの配慮です。
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中級者のためのUnity実装術:アセットの地域最適化

これらのデリケートな問題に『Unity』でどう対応すべきでしょうか。
中級者であれば、単なるテキスト翻訳を超えた「アセット単位のローカライズ」を検討すべきです。

“Asset Variants” の活用: 同じ3Dモデルやテクスチャでも、配信地域(Region)に応じて内容を差し替える手法です。
例えば、日本版では「卍」が含まれる寺院のテクスチャを使い、海外版ではそれを「三重の塔」のアイコンに差し替えた別のバリアントをロードするように設計します。

『Unity Localization』パッケージの深度: このパッケージはテキストだけでなく、SpriteTexture、さらには AudioClip の差し替えも管理できます。
「地域ごとに法律や文化的に適切なアセットを自動で呼び出す」仕組みを構築しておくことで、事故を未然に防ぎ、かつメンテナンス性の高い開発が可能になります。

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まとめ:文化的な想像力が作品の「品位」を決める

技術が向上し、表現の幅が広がったからこそ、その一線一線が「世界の誰かを不快にさせていないか」を問い直す必要があります。

  • 独裁政権の記号は、抽象化し、オリジナルな敵役を作る。
  • 宗教的モチーフは、敬意を持って扱い、安易に破壊や冒涜の対象にしない。
  • 地図や国境は、政治的リスクを回避するための中立性を保つ。

グローバルな市場で長く愛される作品を作るためには、こうした「文化的な誠実さ」が不可欠です。

次回、第4回ではキャラクターの動きにフォーカスした「身体表現:ジェスチャーの誤解」について解説します。
キャラクターの決めポーズが、ある国では「放送禁止レベルの罵倒」になってしまう……そんな落とし穴を回避しましょう。

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